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福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)292号 判決 1949年12月26日

控訴人

簑原重三郞

外一名

被控訴人

右代表者

法務総裁

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人簑原重三郞に対し同人から金一万千五百十九円を受け取ると引き換えに、原判決書添附別紙目録記載の(一)乃至(六)の土地につき、控訴人両名に対し、右両名から金六千円を受け取ると引き換えに、右目録記載の(七)の土地につき、それぞれ所有権移転登記手続を為せ。控訴費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出援用認否は、控訴人等代理人において甲第五号証を提出し、被控訴代理人において右甲号証の成立を認めた外は、いずれも原判決書当該摘示と同一であるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所は原判決書に示された理由と同一理由によつて控訴人等の本訴請求を失当と認めるから、ここに右摘示理由を引用する。当審提出の甲第五号証は右判定の妨げとなるものではない。

これを要するに、控訴人等代理人は本件土地所有権の陸軍省への移轉は、土地所有者である控訴人等との協議によるものであるとの趣旨の主張をしているが、國家総動員法第十三條第三項においては協議收用の場合を認めていないし、また土地收用法第二十二條による協議收用の場合には、土地細目の公告通知などの先行手続を定めており、本件についてそのような手続を踐んだ形跡とてないのであるから、本件の場合は、國家総動員法第十三條第三項の規定に基く收用でないのは勿論、土地收用法第二十二條の規定による協議收用でもなくて賣買であるといわなければならない。さすれば、國家総動員法第十五條土地收用法第六十六條の規定はいずれも適用なく、從つて控訴人等は右法條による收用土地についての先買権を有するはずはないのである。なお、本件における協議はただ價格の決定についてだけ行われたものであり、買收自体は事実上強制的なものであつて、控訴人等の内心的効果においては、その收用の場合と全く異るところがなかつたとしても先買権の取得は、法規に基く一定の手続を踐んでなされた收用の場合にのみ認められるものであるから、控訴人等に先買権があるとは到底いえないのである。

よつて控訴人等の本訴請求を排斥した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條第九十三條を適用して、主文のように判決する。

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